2016年に中小企業庁から公表された「事業承継ガイドライン」によれば、1994年から2014年の20年間で中小企業の社長の平均年齢が20歳上昇し、更に後継予定者のいる企業といない企業を比較すると後継者のいない企業の方が企業業績は悪いとする統計結果を発表しました。これらのことから中小企業の健全な発展が我が国経済の発展に必要と考えた国は、平成30年4月から10か年間を「事業承継推進強化年間」として、様々な施策を講じております。そこで、税理士事務所においても事業承継に取り組むことが増えました
事業承継には誰が承継するかによって累計が存在します
1.親族承継
親族承継は、中小及び零細企業において最もみられる承継携帯です。事業を次世代へ承継する際に候補者として、子孫を承継するものです。子孫へ承継する際に問題となるのは、いつ、だれに、何を、どのように承継するかですが、法人においては株式や持分、個人事業におよては事業用資産の承継があることから、相続税や贈与税といった税務面の扱いが大きな焦点となります。このため、税理士事務所が行う事業承継対策としては税金対策がメインとなります。ただ、事業承継で最も重要なことは先代がいつリタイアするかを決めることです。リタイアする時期から逆算して承継プログラムを実施することが重要です。実施項目は以下の通りです。
1.事業承継者の決定
・直系親族への承継
・傍系親族への承継
・婿養子の活用
2.親族承継タイミングの決定
3.経営権の承継
・事業引継プログラムの制定
・事業引継教育の実施
4.支配権の承継
・事業承継税制活用の有無
・支配権の基礎となる資産評価の減少策の実施
・資産引継
2.従業員承継
従業員承継は、候補者である子孫世代が全員承継を拒否した、そもそも親族承継の候補者となる子孫がいないなどの親族承継が困難である場合に第一義に検討される承継形態です。従業員承継は従業員の中から紹介対象者を選出することから、承継者が事業に精通しているというメリットが存在します。逆に承継資産買取の必要が生じることや従来の借入が存在するため、経営者保証を求められることが多いことから、紹介者が承継に対して抵抗が確実に生じます。税理士事務所で扱う承継としてはマイナーではありますが、承継形態として能力による後継者選定があることから親族承継より有利である可能性が高いです。
実施項目は以下の通りです。
1.事業承継者の決定
2.承継タイミングの決定
・事業購入資金調達方法の決定
・資金調達の実施
3.支配権の承継
・事業承継税制活用の有無
・支配権の基礎となる資産評価の減少策の実施
・資産引継
4.経営権の承継
・事業引継プログラムの制定
・事業引継教育の実施
3.第三者承継
第三者承継は、親族及び従業員以外に事業承継することを指します。第三者承継を行う背景には先代経営者がリタイアすると同時にキャピタルゲインを得る目的が大きい、つまり、事業承継資産の価値を引き上げることが必要になるということです。また、承継者の候補は広く社会から募ることから、事業を維持発展するには最も適切であると思われる人に承継することができるという特徴があります。ただ、承継する候補者を見つけるためにはほかの承継方法と比較して時間がかかります。第三者承継の技法として主なものはM&AとIPOが存在します。
M&Aは企業や事業を承継者に買ってもらうことを言います。売り手である先代経営者は高く売りたい要求が強く、買い手である承継者は安く買いたいことを望み舞ます。M&Aの大きな特徴は買い手と比較して売手のほうが多く情報を持っていることから、買い手は如何にして案件を見極めるかが必要となります。また。M&Aが成立するまで秘密裏に動く必要があります。小規模のM&Aではネット仲介を用いることが基本です。
IPOは社会に対して株式を売り出すことによって社会全体が企業の所有者となり、所有者である株主が最適と思われる経営者を選任する事業承継方式です。特徴はほかの承継方法と比較してハードルが上がることにありますが、このハードルを越えると企業の信用力が上がります。
ここでは、平成30年度税制改正により大幅に改正された事業承継税制について紹介します。
事業承継税制(特例措置)の概要
- 贈与税の納税猶予:一定の条件を満たす後継者が円滑化法の認定を受けている株式を贈与により取得した場合に贈与税を100%猶予又は免除するというもの。
- 相続税の納税猶予:一定の条件を満たす後継者が円滑化法の認定を受けている株式を相続や遺贈により取得した場合に相続税を100%猶予又はするというものです。
ここで言う一定の条件は下記の通りです。
- 平成30年4月1日から平成35年3月31日までの特例承継計画を都道府県知事に認可を受けること
- 適用期限は 平成30年1月1日から平成39年12月31日までであること
- 対象株式は全株式であること
- 納税猶予割合は100%であること
- 承継パターンは代表者を含む先代から最大3名の後継者を対象とすること
- 雇用確保要件を従来から緩和したこと
- 事業の継続が困難となる重大な事由が生じている場合に納税の免除があること
- 相続時精算課税の適用が60歳以上のものから20歳以上のものへの贈与に拡張されている事
この情報だけで直ちに本税制を利用するとする決断を下すのは急ぎすぎだとは思いますが、せっかく事業承継について考える税制を用意していただきましたので利用する可否の検討をする必要はあろうかと考えます。事業承継税制は、事業承継を促すことを目的とするものであって、事業承継によって税収の増大を図ることも目的としたものではありませんから、事業承継を考えようとするきっかけにはなり得るのものではないかと考えております。